近年、企業を狙ったサイバー攻撃は巧妙化し、その脅威は増加の一途をたどっています。情報漏洩やシステム停止などのインシデントは、企業の信頼失墜や事業継続の危機に直結しかねません。しかし、「何から手をつければいいのかわからない」「自社のセキュリティレベルはどのくらいなのか?」と悩んでいる企業も少なくないのではないでしょうか。
今回は、そんなあなたの疑問に答えるべく、経済産業省が推進する「情報セキュリティ格付制度」について、わかりやすく解説していきます。さらに、よく混同されがちなPマーク(プライバシーマーク)やISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)との違い、そして対策を怠った場合に企業が直面する具体的なリスクについても深掘りします。ぜひ最後まで読んで、貴社の情報セキュリティ強化の一歩を踏み出しましょう!
情報セキュリティ格付制度とは
情報セキュリティ格付制度は、経済産業省が策定した情報セキュリティ対策の評価基準に基づき、企業のセキュリティ対策状況を客観的に評価し、そのレベルを格付けする仕組みです。これは、企業が自社の情報セキュリティ対策状況を把握し、さらに改善を進めるための指針となることを目的としています。
この制度は、サプライチェーン全体のセキュリティ強化を目的としており、その評価は★3、★4、★5の3つの区分で行われます。これらが高いレベルのセキュリティ対策を示す一方で、★1(一つ星)と★2(二つ星)は、主に中小企業向けの自己宣言制度である「SECURITY ACTION」において用いられる評価区分です。これにより、企業のセキュリティ対策のレベルを段階的に、かつ具体的に把握することができます。
- ★1(一つ星)- SECURITY ACTION:
情報セキュリティの専門家が不在でも、情報セキュリティ対策に取り組むことを宣言し、情報セキュリティ対策ガイドラインの「情報セキュリティ5か条」のうち「⑤情報セキュリティ対策」を除く4つの項目を実践している状態を示します。 - ★2(二つ星)- SECURITY ACTION:
情報セキュリティの専門家が不在でも、情報セキュリティ対策に取り組むことを宣言し、情報セキュリティ対策ガイドラインの「情報セキュリティ5か条」全てを実践している状態を示します。 - ★3 Basic:
全てのサプライチェーン企業が最低限実装すべきセキュリティ対策として、基礎的なシステム防御策と体制整備を中心に実施する段階です(自己評価、25項目)。 - ★4 Standard:
サプライチェーン企業等が標準的に目指すべきセキュリティ対策として、組織ガバナンス・取引先管理、システム防御・検知、インシデント対応等包括的な対策を実施する段階です(第三者評価、44項目)。 - ★5:
サプライチェーン企業等が到達点として目指すべき対策として、国際規格等におけるリスクベースの考え方に基づき、自組織に必要な改善プロセスを整備した上で、システムに対しては現時点でのベストプラクティスに基づく対策を実施する段階です(第三者評価、対策項目は今後検討予定)。
これにより、自社のセキュリティレベルが第三者から見てどの程度の水準にあるのかが明確になります。
なぜ必要なのか
なぜ今、この情報セキュリティ格付制度が重要なのでしょうか?その必要性は多岐にわたります。
- サイバー攻撃の高度化・巧妙化:
ランサムウェアや標的型攻撃など、企業の大小を問わず常に脅威にさらされています。対策の「見える化」が急務です。 - サプライチェーンリスクの顕在化:
大手企業だけでなく、取引先の中小企業がセキュリティの穴となり、サプライチェーン全体に被害が及ぶケースが増えています。取引先選定の際の重要な指標となります。 - 法的・社会的要求の高まり:
個人情報保護法改正など、情報管理に対する法的規制が強化され、企業にはより高度なセキュリティ対策が求められています。 - 事業継続性の確保:
情報漏洩やシステム停止は、事業活動に甚大な影響を与え、企業の存続を危うくする可能性があります。事前の対策が事業継続の鍵となります。 - 企業のブランドイメージ向上:
高いセキュリティレベルを維持していることは、顧客や取引先からの信頼を獲得し、企業の競争力強化につながります。
Pマーク、ISMSとの違いは?
情報セキュリティに関連する認証制度として、Pマーク(プライバシーマーク)やISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)という言葉を聞いたことがある方もいるかもしれません。これらの制度と、経産省の情報セキュリティ格付制度は、それぞれ目的や評価対象が異なります。
制度名 | 目的・対象範囲 | 特徴 |
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経産省 情報セキュリティ格付制度 | 企業全体の情報セキュリティ対策状況を網羅的に評価し、客観的なレベルを格付けします。サプライチェーン全体のセキュリティ向上を意図しています。 |
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Pマーク(プライバシーマーク) | 企業が個人情報を適切に取り扱っていることを評価・認定する制度。 |
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ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム) | 企業が情報セキュリティを組織的に管理するための「仕組み(マネジメントシステム)」が構築・運用されていることを評価・認定する国際規格(ISO/IEC 27001)。 |
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要するに、Pマークが「個人情報」に特化し、ISMSが「情報セキュリティのマネジメントシステム」に焦点を当てるのに対し、経産省の情報セキュリティ格付制度は、より広範な企業の「情報セキュリティ対策の実態」をシンプルに評価し、サプライチェーンにおけるセキュリティレベルの目安として活用されることが期待されています。
対象者はだれなの?
この制度の対象は、情報セキュリティ対策に取り組む意欲のある全ての企業・組織です。
- 大企業:
サプライチェーン全体のセキュリティレベル向上を牽引するため、自社の対策を評価し、取引先にも適切なセキュリティレベルを求める上で活用できます。 - 中小企業:
リソースが限られる中で、どこから手をつければ良いか分からない中小企業にとって、具体的な指針となり、効率的なセキュリティ強化を後押しします。また、取引先からの信頼を得る上でも有効な手段となります。 - 組織全体:
企業だけでなく、自治体や医療機関など、機密情報を扱うあらゆる組織が対象となり得ます。
特に、大手企業との取引を考えている中小企業は、この制度を通じて自社のセキュリティ対策を「見える化」することで、信頼性を高めることができるため、積極的に検討する価値があるでしょう。
メリット、デメリット
メリット
- 自社のセキュリティレベルを客観的に把握できる:
第三者による評価で、強みと弱みが明確になります。 - 具体的な改善点がわかる:
評価結果に基づいて、次に何に取り組むべきかが明確になります。 - 顧客や取引先からの信頼獲得:
高い格付けは、企業としての信頼性や透明性をアピールできます。特に、新規ビジネスの獲得や既存取引の維持に有利に働くことがあります。 - インシデント発生時のリスク軽減:
事前に対策を講じることで、万が一の際の被害を最小限に抑えられます。 - 社内のセキュリティ意識向上:
制度への取り組み自体が、従業員のセキュリティ意識を高めるきっかけになります。
デメリット
- 評価にかかる費用と時間:
審査を受けるための費用や、準備に一定の時間とリソースが必要です。 - 継続的な取り組みが必要:
一度取得すれば終わりではなく、常に変化する脅威に対応するため、継続的な改善と再評価が求められます。 - 格付けが低い場合の外部への影響:
もし低い格付けになった場合、外部からの評価に一時的に影響が出る可能性もゼロではありません。しかし、これは改善の機会と捉えるべきです。
対策しないと企業としてどうなるのかの予想
対策を怠ると、企業に壊滅的な影響が及ぶ可能性があります。
情報セキュリティ対策を講じない、あるいは不十分な状態が続くと、以下のような厳しい現実が企業を待ち受けているかもしれません。
- 信用失墜とブランドイメージの毀損:
情報漏洩やサービス停止は、顧客や社会からの信頼を失墜させ、長年築き上げてきたブランドイメージを根底から揺るがします。一度失った信頼を取り戻すのは至難の業です。 - 多額の損害賠償と罰金:
個人情報漏洩の場合、多額の損害賠償請求が発生する可能性があります。また、法的規制に違反すれば、行政指導や多額の罰金が科されることもあります。 - 事業活動の停止・中断:
ランサムウェアによるシステムロックやデータ破壊、DDoS攻撃によるサービス停止などが発生すれば、事業活動そのものが中断・停止に追い込まれ、売上機会の損失や取引機会の喪失につながります。 - 取引からの排除:
サプライチェーン全体のセキュリティ意識が高まる中、セキュリティ対策が不十分な企業は、大手企業や意識の高い企業との取引から排除されるリスクが高まります。これは、新たなビジネスチャンスを失うだけでなく、既存の取引関係も危うくする可能性があります。 - 訴訟リスクの増大:
情報漏洩やセキュリティインシデントが原因で、顧客や株主、取引先から訴訟を起こされるリスクが高まります。 - 競争力の低下:
セキュリティ対策への投資を怠る企業は、先進的な企業と比べて競争力を失い、市場での優位性を保つことが難しくなります。
これらのリスクは、中小企業にとっては特に致命的となりかねません。「うちは狙われないだろう」という安易な考えは、企業の存続を脅かす大きな誤解です。対策は、企業を守るための必要不可欠な投資なのです。
将来性
情報セキュリティ格付制度は、今後さらにその重要性を増していくと考えられます。
- サプライチェーン全体のセキュリティ強化:
大企業が取引先に一定のセキュリティレベルを求める動きは加速しており、その指標として格付制度がより活用されるようになるでしょう。 - 国際的な連携:
サイバー攻撃は国境を越えるため、国際的な情報セキュリティ評価基準との連携や相互承認が進む可能性もあります。 - 保険料への影響:
将来的には、企業が加入するサイバー保険の保険料設定において、この格付けが考慮されるようになるかもしれません。 - 競争力の源泉:
情報セキュリティへの取り組みは、もはやコストではなく、企業の持続的な成長と競争力を支える重要な要素として認識されるようになるでしょう。
情報セキュリティ対策は「攻めの経営」の一部として、ますます注目されていくことでしょう。
具体的な対策内容
格付けを取得するため、また日々の情報セキュリティを強化するためには、具体的にどのような対策が必要になるのでしょうか。評価項目は多岐にわたりますが、ここでは主な対策内容を挙げます。
- セキュリティポリシーの策定と周知:
情報管理に関する明確なルールを文書化し、全従業員に周知徹底します。 - 組織体制の整備:
セキュリティ責任者の配置、インシデント対応チームの設置など、有事の際の体制を整えます。 - 技術的対策の強化:
- ファイアウォールやIDS/IPSの導入
- アンチウイルスソフトの導入と常に最新の状態に保つ
- OSやソフトウェアの定期的なアップデート
- 多要素認証の導入
- データのバックアップと復元体制の確立
- 脆弱性診断の実施
- 従業員教育の実施:
定期的なセキュリティ研修や訓練を行い、従業員のセキュリティ意識とリテラシーを高めます。 - 物理的セキュリティ対策:
入退室管理、機器の施錠など、物理的な側面からの対策も重要です。 - 外部委託先の管理:
業務を外部に委託する場合、委託先のセキュリティ対策状況も確認し、適切な管理を行います。
これらの対策は、一度行えば終わりではなく、PDCAサイクル(計画-実行-評価-改善)を回しながら、継続的に見直し、改善していくことが不可欠です。
注意点
- 格付けは「ゴール」ではない:
格付けの取得はあくまでスタートラインです。取得後も、変化する脅威に対応し、継続的な改善を行うことが最も重要です。 - 自社の状況に合わせた対策を:
他社の真似をするだけでなく、自社の事業内容、規模、保有する情報資産の種類などを考慮し、実情に合った対策を講じることが肝要です。 - 費用対効果を意識する:
セキュリティ対策にはコストがかかります。どこまで対策を行うべきか、費用対効果を意識しながらバランスの取れた投資を検討しましょう。 - 専門家の活用:
自社だけで全てをカバーするのが難しい場合は、情報セキュリティの専門家やコンサルティングサービスを活用することも有効です。
まとめ
経済産業省の情報セキュリティ格付制度は、企業が情報セキュリティ対策を客観的に評価し、改善していくための非常に有用なツールです。サイバー攻撃の脅威が日々増大する現代において、もはや情報セキュリティ対策は「コスト」ではなく、「企業価値を高めるための投資」として捉えるべきでしょう。
PマークやISMSとの違いを理解し、自社に最適なセキュリティ対策の道を模索することが重要です。そして何よりも、対策を怠ることで企業が直面する甚大なリスクを認識し、「セキュリティは他人事ではない」という意識を持つことが、企業を守る第一歩となります。
この制度を活用することで、自社のセキュリティレベルを明確にし、具体的な改善策を実行することで、顧客や取引先からの信頼を獲得し、ひいては企業の持続的な成長に貢献することができます。ぜひこの機会に、貴社の情報セキュリティ対策を見直し、強固な体制を築いていきましょう。
※参考にされる場合は自己責任でお願いします。